コーディング不要のSigmaDSPを試食する
Analog DevicesのドメインスペシフィックDSPの試食
去年末に偶然発見したSigmaDSP
SigmaDSP プロセッサ | DSP&MCU | アナログ・デバイセズ
SigmaDSPにはいくつか世代や種類があるようですが、今回目を付けたのがADAU1701。(同一性能&パッケージで温度のみ車載グレードはADAU1401A)
24bitのAD/DAが入ってるだけで凄いのにDSP入りでコーディングが不要。ついでにポテンショメータなどの用途向けに8bitの補助的ADCもついてる。
SigmaDSP自身はプログラム格納フラッシュを持たずI2C/SPI経由でパラメータやブートプログラムをDSPに流し込む仕組みで、外部マイコンやPC等から書き込みが可能。
一部のデバイスは外部I2C EEPROMからブートすることも可能。最新のADAU1452はSPI EEPROMも使えるみたいですね。
擬似差動入力や、低消費電力、低ノイズ向けデバイスもありますが、すべての機能が搭載されているわけではないのでアプリケーションに応じて選択するのが良いと思います。まず手始めに一通りの機能がそろってるADAU1701/1401Aをつかってその後、アプリケーションに応じてデバイスを選択すると良いと思います。たとえば低ノイズが要求される場面でADAU1781をAD/DA+デジタルフィルタ代わりに使ってADAU1445をI2SでつなげてGPIO拡張や追加の演算をさせると、低ノイズで高速な制御系が要求される場面で役立つのではないかなと思います。
ただ、外部にSDカードをつなげたりUARTでprintfしたりといった「汎用マイコン」としての機能はまったくないので、結局外部にコプロセッサとしてのI2C/SPI通信が可能なマイコンが必要となるかも。*1
GUI開発環境から外部マイコン用にヘッダファイルも生成してくれるので、それをつかってArduinoとかmbedからSigmaDSPをコンフィグするのもいいかもしれない。
また、SigmaDSPのAD変換結果をリードしたり、DA変換器にデータを流し込んだりするのにI2SかTDMインターフェースを持ってるマイコンがあると便利なはず。
最近流行りのドメインスペシフィック開発(特定用途向け限定開発)の流れを汲んでいて、プロパティドリブンとなっている。
たとえば、1kHzの正弦波を出したければ、Toneのアイコンを配置して1000と入力するだけで完成。(Toneのプロパティは周波数)
開発環境をそろえる
- 開発はSigmaStudio。現在はXPとVistaと7のみ対応しているらしい*2。ダウンロードはフリー。
- デバッガはUSBi。USBiの実態はUSB to I2Cマスタのドングルなので、SigmaStudioが生成したhexをSigmaDSPに流し込める自前のI2C環境があるなら、必須ではない。
でもUSBiがあると、GUIで制御パラメータを変更したときにリアルタイムに結果を確認できるといった恩恵を享受できるので、あるに越したことはないです。(Digikeyで1万円とちょっと)
海外だとArduinoとVSでSigmaDSP書き込み環境を構築している作例も見ることができる。このソフトはダウンロードできるので興味のあるArduino使いの方はDLして試してみてもいいと思います。(紹介ビデオのリンクはこちらA Universal Through-Hole Audio DSP Board Based on the ADAU1701 [130232-I] | Elektor Labs)
なお、USBiはこんな外観。小さい。
2x5ピンのフラットケーブルもついてくる。なおこの基板のメインはCypress FX2LP (CY7C68053)で回路図は公開されている。
- ターゲット
開発ボードもあるんですが、部品が山盛り載ってて自分の試したいアプリケーションで使うには大改造が必要な感じだったので最初はバラックで組むことにしました。うまくいったらPSoC4+ADAU1701基板起こしますかね。
ADAU1701をサンプルでADIからゲット。
- データシートなど資料
ADIのチップは頭から足の先まで末恐ろしい挙動をする悪魔のデバイスなのでマニュアルにのっているデータだけではなく各方面の資料を調べて総合的に判断した方が良さげです。
ADAU1701で調べたのは以下の資料
- データシート:http://www.analog.com/static/imported-files/data_sheets/ADAU1701.pdf
- 純正評価ボード:http://www.analog.com/static/imported-files/eval_boards/EVAL-ADAU1701MINIZ.pdf
- SigmaDSPのGPIOの使い方とか:http://www.analog.com/static/imported-files/application_notes/AN-951.pdf
- SigmaStudio Wiki:SigmaStudio and SigmaDSP Documentation [Analog Devices Wiki]
試食用ハードを用意
大体使い方がわかってきたところで、バラック組みをしてみました。ほぼADAU1701データシートのp.49『SELF-BOOT MODE』の通りに組み上げましたが、公式評価ボードを参考にし、DSPのWPピンを10kでプルアップ、I2C EEPROMのWPをGNDに落としています。(こうしないとEEPROMからブートしない)
ぐちゃっ
ソフト
とりあえず、DSPで正弦波を作ってDACから出力しようと思います。
2014年4月8日現在、SigmaStudio 3.9が最新版です。Beta 3.10.3もありますが、自分の環境だとUSBiが時々見えなくなる現象が起きたので使用を控えました。
(メニュー)File -> New Project
を選択します。Tree ToolBoxからUSBi, ADAU1701, E2Promを選び、ひとつずつ隣のHardware Configurationタブにドラッグし、下図のように結線します。
次にHardware ConfigurationタブからSchematicタブに移動します。
ここでも同様にTree ToolBoxから機能パーツを選択します。
(IC 1)ADAU1701のツリーから以下のパーツを探して、Schematicタブにドラッグしてきます。
- Basic DSP -> Logic -> Invert -> Signal Invert
- Basic DSP -> Arithmetic Operations -> Signal Add
- Sources -> DC -> DC Input Entry
- Sources -> Oscillators -> Sine tone
あと、DACを2つ使うので、
- IO -> Output -> Output (を2つドラッグしてくる)
加えて信号分岐用にTree ToolBoxの上層のSchematic Design -> T Connection をドラッグしてくる。
下図のようになるはず。
これを以下の図のように配線する。
Tone1には100(Hz)、DCには0、Output1,2はそれぞれDAC0,DAC1をプルダウンから選択する。inv1にチェックを入れるのを忘れずに。
これで完成したので、リンクとコンパイルを行う。メニュー下のアイコン一覧から、Link Projectアイコンをクリックする。
ポップアップウィンドウでエラーがないことを確認したら、このウィンドウを閉じる。万が一エラーが出たら未結線のコネクションがないかもう一度確認する。
次に隣のアイコンのLink Compile Connectをクリックする。
もしこのときUSBiが接続されていない旨のエラーが出た場合(下図のエラー)
USBiを使ってない場合はそのままOKを押して次へ。
もし使っている場合はUSBiの接続や、ドライバがこけていないか確認する。
(USBiユーザのみ)次にそのまた隣のアイコン、Link Compile Downloadをクリックする。こうすると、ボードとの接続が開始され、Schematicタブでプロパティ変更を行うと瞬時に結果が反映される。DAC0,DAC1はADAU1701の46,45番ピンにアサインされているので、オシロのプローブを当たると下図のようになるはず。DAC1はSignal Invertを挿入しているのでDAC0の信号を反転した波形が出力されているはず。
なお、下図のようにバイアスを与えてみる(DCのプロパティに1を代入)と
半波整流回路を通した後のような波形が得られる。
※ EEPROMに書き込みたい場合は以上の手順を踏んだ後、Hardware Configurationタブに戻り、ADAU1701のアイコン上で右クリック→ Write Latest Compilation to E2PROMを選択する。これで、SigmaDSPが起動後、SELFBOOT端子がHighになっていればI2C EEPROMからパラメータをロードしてDSPを起動することができる。